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ep27 王女の部屋

Author: 根上真気
last update Last Updated: 2025-04-24 07:01:36
ディリアスに案内され、王女の自室前に王子ふたりが到着する。広い城内の移動はしばしの時間を要した。

「王女殿下」

ディリアスが部屋のドアをノックする。返事がない。何度かノックを繰り返す。一向に反応がない。いぶかしく思ったディリアスは、ドアノブに手をかけた。

「申し訳ございません。少々お待ちくださいませ」と王子ふたりへ丁寧に言ってから、ディリアスはドアを開けて「失礼いたします」と入室した。しっかりとドアを閉めると、部屋の中を確認する。

「人の気配がないな......」

ディリアスは室内を見まわしながら、天蓋のカーテンに隠れたベッドの手前まで行く。

「王女殿下。いらっしゃいますか?」

ここでもやはり返事がなかった。仕方ないな、とディリアスはカーテンに手を伸ばした。

「失礼いたします」

シャッとカーテンを開ける。転瞬、ディリアスはギョッとする。なんとベッドの上に、さっきまで王女が着ていた衣服が散らばっていた。

「天真爛漫にもほどがありますよ......」思わず一人言がこぼれたディリアスは、仕方なく部屋の外へ引き返していった。

「お眠りになっていらっしゃるのですかね。やはりご迷惑だったでしょうか」

ディリアスが部屋から出てくるなり、フェリックスが言った。

「念のため医務室へ行ったようです」ディリアスは恐縮しながら答える。「大変申し訳ございませんが、もう少々お待ちいただけますか?」

「かまいませんよ」

フェリックスは笑顔で了承した。弟のレイナードは、顔を背けて見えないようにため息をついた。

「ありがとうございます」

それからディリアスは部下に耳打ちする。速やかに王女殿下を探してお連れして来いと。
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